●考察 ●・操作5:迷走交感神経幹の刺激  これにより心臓は停止したが、迷走神経より交感神経の方が優位に立った理由は、以下のように推測する。  まず物理的に、交感神経しか刺激しなかったこと。つまり名前が「迷走交感神経幹」で、それらは集まった1本に見えるが本来は2本が並行して走行している。そのうち1本しか刺激しなかったことは、あり得ない話ではない。  またそうではなく、両方を一度に刺激したのだとすると、迷走神経から放出されるアセチルコリンによる、交換神経終末のシナプス前抑制が考えられる。迷走神経の伝達速度が交感神経のそれよりも速いことがあげられる。 ●・操作6:静脈洞(Remakの神経節)の刺激 ●・操作7:心房中隔(Ludwichの神経節)の刺激 ●・操作8:房室咬輪(Bidderの神経節)の刺激  すべて止まったのは、「操作5」と同じ理由である。 ●・操作9-1:アドレナリン(Adr)の投与  徐々にではあるが、ふれ幅が大きくなったのは、アドレナリンが交感神経の神経伝達物質だからである。また、「徐々に」大きくなったのは、アドレナリンの組織への浸透にかかる時間が考えられる。 ●・操作9-2:アセチルコリン(Ach)の投与  徐々に小さくなるのは、アセチルコリンが迷走神経の神経伝達物質だからである。また「徐々に」小さくなったのもアドレナリンと同様の理由からである。 ●・操作9-3:ニコチン(Nic)の投与  ニコチンを投与した後、迷走交感神経幹を刺激しても心臓は停止せず、静脈洞を刺激すれば停止したのは、ニコチンが神経節(迷走神経の)を遮断したことが考えられる。  迷走神経を遮断したということは、心臓の恒常性が維持されず、交感神経の作用により拍動が早くなるはずであるが、そこまでは確認できなかった。 ●・操作9-4:Achとアトロピン(Atr)の投与  この操作においては、アセチルコリン単独の時に比べて、心拍の回復の仕方が早かったので、アトロピンはアセチルコリンの拮抗薬と考えられる。また迷走交感神経幹や静脈洞を刺激しても死蔵は停止しなかったことから、アトロピンはアセチルコリンそのものを分解しているのではなく、仕事(迷走神経の刺激)の邪魔をしていると考えられる。 ●・心拍数の増加について  心膜の除去前後の心拍数を比べると、実験1のように除去後の方が多いはずであるが、今回の実験では逆の結果が得られた。実験3では1と変わらない結果が得られたことを考えると、これは単純に測定ミスか、何らかの手術ミスが考えられる。また迷走交感神経幹に糸をかけていたことによって神経が刺激された可能性もある。 ●考察 ●・NaClを入れたときにふれ幅が短くなったことについて  まず静止膜電位は各イオンの間の濃度で決まる。従ってどれかが、過剰・不足の状態が続くと、均衡が崩れ静止膜電位ではなくなり、過分極または脱分極を起こす。  今回の実験では、Na+が過剰のため、親近の興奮・収縮連関を抑制することがわかる。 ●・CaCl2を入れたときについて  Ca++濃度の上昇は、心筋の収縮性を高める。つまり、Ca++の増加によって静止膜電位はわずかに過分極しており、活動電位は短縮・抑制されているのである。 ●・KClを入れたときについて  高濃度のK+によって膜電位は脱分極を起こし、活動電位の短縮とこれに伴う緊縮張力の抑制と静止張力の増大をもたらす。つまりこの状態は脱分極性のK拘縮である。拘縮は脱分極によるCaの流入によるものである。 ●・温度変化に関して  温度の変化は25度で最大値を示したのは、ウシガエルがこの環境に生息しているからというのは明らかだ。自分の生息しているところに適応させるか、突然変異した種類がこの環境に適応したのであろう。では、そうでないところではどのような所作を示すのかというと、以下の通りだと考えられる。  まず低温の状態では、彼らは冬眠状態と同じになる。従って体中の代謝能力は低下し、必要とする酸素や栄養素の量が落ちる。さらに省エネルギー型の体にするために心臓といえどもエネルギーの無駄遣いを嫌う。そのため、心臓の拍動が下がったと思われる。  次に高温の状態では、血中の酸素分圧があがったり、酵素が失活したりして、生化学的な反応の多くが支障を来すだろう。そのため、一連の温度上昇は酵素の反応曲線のように最適値を超えると急激な活動の低下を引き起こしたのかもしれない。