● 腎臓の発生 1.前腎  a.体の正中軸両側で体腔を囲む中胚葉から起こり、各体節ごとに1対ずつ生じ、前腎細  管と、その集合管である前腎管をもつ。  b.前腎は高等脊椎動物(爬虫類以上)では、まだ充分に発達しないうちに消失し、その  すぐ後方に中腎が現れる。 2.中腎(原腎)  a.中腎細管の一端は盲端に終り、ここに後脊でみると同様の糸球体を抱く。中腎細管は  中腎管(ウォルフ管)に集合する。  b.中腎管は前腎管から直通する一次尿管で、雄では後腎の出現とともに転化して精管と  なる部分で、雌では退化消失する。  c.さらに、中腎管に沿って現れる中腎傍管(ミューラー管)は雄では間もなく退化する  が、雌では後にこの管から卵管、子宮、膣が発達する。  d.中腎は胎子の時代に消失して、これに続いて後腎が現れる。 3.後腎(永久腎)  a.爬虫類以上に現れる。  b.その導管は二次尿管といわれ、成体でみる尿管となるもので、一次尿管と全く別の部  分から出現して後腎に連絡する。 ● 腎臓の位置 1.腎臓は肝臓に次ぐ大型な暗褐色の腺で、腹腔腰部にあって左右1対からなり、各々が脊 柱を介してその両側に位置する。 2.腎臓の位置は家畜によって多少の差はあるが、およそ第1−4腰椎肋骨突起の腹位の辺り にある。 3.腎臓の名称  a,内側縁 腎門−腎動脈、腎静脈、尿管、リンパ管、神経等が出入する。 腎洞−腎門の内部をいう。  b.外側縁  c.前端−左右の腎臓の前端は決して同一線上に並ばないで、幾分前後に前後にずれてい  る。このずれの原因は隣接臓器の圧迫がもとで、これに加えて腎臓の体壁への付着の  仕方が緩やかなためである。  d.後端  e.腹側面−腹膜(漿膜)の連続で覆われる。  f.背側面−粗性結合組織で直接に横隔膜筋柱、腸骨筋膜、腰部の諸筋に付着する。しか  し、その結合度は比較的緩やかであるから、周囲からの圧迫で転位しやすい。  g.脂肪被膜−馬:比較的少ない。牛:腎表面の溝の中にも侵入。  h.繊維被膜  i.腎筋膜−牛、羊、人 4.各家畜の腎臓の位置の比較  a.豚:左腎がやや前方にみられる(人と同じ)。左腎ははなはだ移動性に富み、時には  ずっと後退して骨盤腔の入ロ近くに認められることもあり、まれにまったく左腎 がない場合もある。右腎は肝臓と接触しないから、肝臓の尾状葉に腎圧痕が現れ ない。その他の家畜:すぺて左腎が右腎よりも少し後方に位置する(兎で顕著)  b.遊走腎 1)反芻類家畜(牛・羊・山羊など)の左腎は正常の状態で遊走腎である。 2)遊走腎とは原位置から移動した腎臓をいうが、反芻類の場合には第1胃の容積 の変化につれて左腎が移動して定着性を示さない。  c.犬:左腎もしぱしば転移して、およそ1椎体幅後へ下がることがある。この場合も胃 が拡張して左腎を後方へ圧迫するのが原困のようである。  d.馬:右腎は腹面を肝臓(肝腎間膜)、膵臓、盲腸底で周囲を取りまかれ比較的安定で あるが、左腎は空腸や小結腸に接し、時に多少の転位をみせて後方に下がること がある。  *全般的に、左腎の転位性が強い。 ● 腎臓の形態的分類 1.葉状腎  a.腎臓はもともと小腎の集合体で、葉伏腎の場合は小腎またはいくつかが集まった腎葉  が各自に独立して結合組織でまとめられ、外観的にも明らかな分葉構造が認められる。  b.各腎葉の腎乳頭は賢杯や尿管を通じ共通の太い尿管に集まるから、プドウの房のよう  な形になる。  c.葉状腎は原始的要素を温存し、哺乳類では胎子時代に一時的に出現する。  d.例:海洋に生活する哺乳類‐食肉目鰭脚亜目(イルカ‐200個以上の独立した腎葉の    集合からなる)、鯨自、カワウソ、北極クマなど。 2.単腎 ・各腎棄が全般(or部分)的に癒合して独立性を失ったもので、癒合度に種々の差がある。  a.不完全分葉腎:外観的に葉状腎の形をそなえたものであるが、各腎葉は一部分で癒合 しているから完全な葉状腎ではない。 例:霊長類の一部、偶蹄類の一部(牛など)、長鼻目  b.完全単腎:外面から見ても、割面を見ても完全に癒合した型のもの。 例:馬・羊・犬・兎 ● 家畜の腎臓の形態 ・家畜の腎臓はいずれも単腎に属しているが、腎葉の癒合度に種々の違いがある。以下、 葉状腎的性格の濃厚なものから順に記述する。 1.牛(不完全分葉腎)  a.形状:長楕円形で、表面に多数の溝が現れ、腎実質は約20個の多角形の腎葉に分離  b.外観:葉状腎の形態をそなえ、腹側中央やや前位に広い腎門がある。  c.割面:各腎葉は皮質の表層および髄質の内帯が分離しているだけで、皮質の深層や髄 質の外帯は隣接の腎棄の同じ部分と癒合し、完全に分葉していないので不完全分 葉腎という。  d.腎葉:腎錐体をつくり、その尖端が腎乳頭となる。  e.尿管:とくに腎盤をつくらず、ただちに前後に走る2本の管に分かれ、前方のものが やや太い。この管から腎乳頭の数(18-22個)に応じそれぞれ腎杯がでる。 2.豚  a.形状:インゲン豆状で、他の家畜より厚みは薄い。  b.外観:表面は、腎葉が完全に縮合し滑らかである。  c.割面:各腎葉が腎錐体をつくり、隣接する腎乳頭は癒合することがある。  d.各乳頭ほ腎杯におおわれ、腎杯が腎盤に会合して尿管に続く。 3.馬  a.形状:右腎はハート形で、左腎は豆形の単腎である。  b.外観・割面:各腎棄は完全に癒合し、腎臓の表面は平滑で、腎乳頭も一つにまとまっ た腎乳頭としてみられる。腎杯はつくられず、乳頭管は直接腎盤に開口する  c.腎稜:腎乳頭の中央部はゆるく孤を描いて腎盤中につき出ているので腎稜とよばれる。  ここは中央部付近の腎葉の腎錐体の癒合部である。  d.終陥凹:腎稜の頭端または尾端に近い腎錐体は裂隙状に狭い管(終陥凹)に乳頭管を  開口させて腎盤に続く。 4.山羊・犬・羊  a.豆形の単腎で、馬とほぼ同様である。  b.終陥凹は短い。